はじめに
視覚障害を持つお子さんを育てる保護者の中には、「同じ年齢の子より言葉が遅いけれど大丈夫?」と不安に感じる方も少なくありません。しかし、視覚に制限があることで、ことばの発達がゆっくりになるのは自然なことです。本記事では、視覚とことばの発達の関係を専門的に解説し、健常児との発達の違いを比較表で示しながら、保護者や支援者ができる関わり方についてもご紹介します。
視覚情報とことばの発達の関係
言語発達は、「見て・聞いて・感じる」複数の感覚を通して築かれていきます。中でも「視覚」は、子どもが周囲の環境から情報を得てことばを理解する上で非常に重要な感覚です。
たとえば、健常児は大人が「これはリンゴだよ」と言いながら果物を見せることで、「リンゴ=赤い丸いもの=食べ物」と意味づけをしていきます。しかし、視覚障害がある場合、物を直接見ることができず、こうした「ことばと対象物との結びつき」がしづらくなります。
また、周囲の人の表情や口の動きを視覚的に観察することができないため、言語の模倣や社会的なやりとりを学ぶ機会も制限されます。これらの理由から、視覚障害児の言語発達は、一般的にゆっくりと進行する傾向があります。
【比較表】健常児と視覚障害児の言語発達の違い
下の表は、健常児と視覚障害児におけるおおよその言語発達の違いを示したものです。個人差が大きいため、すべてのお子さんに当てはまるわけではありませんが、目安として参考にしてください。
発達年齢 | 健常児の言語発達の特徴 | 視覚障害児の言語発達の傾向 |
---|---|---|
1歳 | 単語(例:「ママ」「ワンワン」)を発語 | 発語がまだ見られないこともある |
2歳 | 2語文(例:「ママ きて」)を話す | 単語が少しずつ出始める |
3歳 | 会話のやりとりが可能になる | 単語数は増えるが、会話は難しい場合がある |
4歳以降 | 文法的な構文を使って話す | 個人差が大きく、支援により発達に差が出る |
視覚情報が乏しい分、言語獲得において「経験」が非常に重要になります。つまり、「触れる」「聞く」「体験する」ことを通して、ことばの意味をつかんでいく必要があるのです。
視覚障害児への言語支援のポイント
視覚障害児の言語発達を支援するためには、以下のような工夫が効果的です。
● 触覚・聴覚を活かした語彙の習得
物に触れながら、「これは冷たいね。氷っていうんだよ」など、五感を使った説明をすることで、ことばと感覚を結びつけやすくなります。
● 日常生活の中で丁寧に語りかける
視覚障害があると、自分で周囲を観察することが難しいため、周りの大人が意識的に「今○○してるよ」「○○が鳴ってるね」など、ことばで状況を説明してあげることが大切です。
● 子どもの反応を待つ
ことばを発するタイミングが遅くても、「聞く力」や「理解する力」は育っていることが多いです。焦らず、子どもからの反応を待つ姿勢が信頼関係にもつながります。
● 専門機関のサポートを活用する
言語聴覚士(ST)や視覚支援の専門機関、発達支援センターなどの力を借りることで、家庭だけでは難しい支援も受けられます。早期からの相談・介入が、言語発達に良い影響をもたらします。
まとめ
視覚障害をもつお子さんにとって、ことばの発達がゆっくりであることは決して「遅れ」ではなく、「その子のペース」です。見ることが難しいからこそ、他の感覚を通してゆっくりと世界を学んでいます。
大切なのは、日々の生活の中でたくさんの語りかけや体験を提供すること。そして、必要に応じて専門家の手を借りながら、その子の持つ力を信じて見守っていくことです。
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